滅びる国 滅びる文化
三谷幸喜監督の「みんなのいえ」を見てきた。
秀作である。いい味を出したコメディだ。
田中邦衛ふんする大工の棟梁が、日本の大工だ、と威張るところがあるが
まさしく威張るべきが日本の大工で、山本夏彦さんがよくかかれているが、
その技術力には世界の建築家が目を剥いたものだった。
だった、というのはそういう大工は日に日に滅びようとしているからである。
大工だけではない。たとえば着物という文化を作り出すことに関与するあら
ゆる職人たちはあと十年もすればいなくなってしまう。その技術を正しく
受け継ぐ後継がいない。
難しいものだ、便利であることの誘惑に人間は抗しきれない。
ひとたび生まれたテクノロジーは決してなくならない。
便利に負けて、面倒な技術はすたれ、文化は滅んでいく。
まあ、何をどう騒いでも、滅びるものは滅びるのだ。
そんな中でも、自分たちの先祖が受け継いできた知恵を少しでも活用する
ことができたら。たとえば狂言の野村萬斎師は、狂言の技術を活かして
現代劇にも出る、テレビにも映画にも出る。
たとえば野口健氏はゴミを拾う、日本人の誇りをかけて。混血である彼は
それがゆえにも日本人としての強い自意識を持つ。その誇りの持ちようには
軍人であったお祖父様の魂もまた影響を与えているだろう。
浮き足立ってしまいそうになるとき、哀しすぎるとき、辛すぎるときにこそ、
自分たちの先祖がしてきたことに教わるべきだ。
醜いことでも、美しいことでも。
そこにしか、ぼくたちが拠って立つべきものはないのだから。
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