私たちはまだ20世紀のどん詰まりにいる
山本夏彦さんの書いたものはすべて読んでおくべきである。本当の栄養に溢れている。昨日紹介した「社交界」たいがいのなかからまたいくつか引用する。ぜひ原書にあたってください。
『情報化時代とは言うけれど』のなかから魯迅の「魏晋の時代相と文学」についてかいつまんだもの。
「歴史上の記事と論断はあてにならない。信じられないところが多い、某朝の年代が長ければそのなかには善人が多く、短ければたいてい善人はいない。年代が長ければ歴史を書くものは同朝人で、当然同朝の人物に迎合する。歴史が短かければ歴史を書くものは別朝人で、自由にその異朝人を悪く言える。魏の曹操の時代は極めて短いので悪く言われること多いが、実は曹操は一個手腕力量のある人物で私は彼に感服している。」
歴史が長くいろいろあり離合集散してきた国だが、と英仏中などの国の外相(外相たるもの洋の東西新古を問わずその才は常に嘘吐き法螺吹きの才である)
言い、パウエルは民主主義においては世界最古と胸を張った。だが民主主義の根幹たる選挙がでたらめであったことはついこのあいだのことである。パウエルは気合の入ったいい荒事の顔をしていた。新之助丈よろしく学ぶべきである。
『21世紀はこないだろう(再び)』より。
「かくてテレビはいよいよテレビに、原爆はいよいよ原爆になるよりほかはない。小国が持つことを大国がさまたげるのは我々が文明人の皮をかぶった野蛮人である証拠である。わが胸の底にあるのは昔ながらの色と欲である。
原爆を独占できたらさぞよかろう、世界を制覇できるとアメリカ人もドイツ人も思った。アインシュタインはドイツに先んじられるのを恐れて一刻も早く作れ、作ったら使えと当時の大統領に進言した。ドイツが降伏して日本を爆撃する理由は全くなくなったのに一度ならず二度まで投下した。非戦闘員どころか赤子まで殺した。天人ともに許されぬ大虐殺だと子供に問わせて答えるがいい。
アインシュタインはさすがに髪かきむしって悔いた。来世はブリキ職人か行商人になりたいと嘆いたというが、ほかの連中は後悔なんかしなかった。産業革命以来の科学者は自分の研究、自分の実験をア・プリオリに「善」だ「進歩」だと信じてつゆ疑ってない。」
21世紀はこないだろう。山本さんは
「ある種の動物が全地球を覆ってわがままの限りを尽して許されるということはないのである」
と結ぶ。
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